近年、健康経営や従業員の健康づくりにおいて、「睡眠休養感」という言葉を目にする機会が増えてきました。
睡眠休養感とは、簡単にいえば「睡眠によって十分に休養がとれたと感じられているか」もっと簡単にいえば「起きたときのすっきり感」という主観的な感覚です。
※夜勤やシフト勤務の方もいらっしゃるので「朝起きたとき」とは表現しません。
健康診断などでも「睡眠で休養が十分とれていますか」という設問が使われており、従業員の睡眠状態を把握するうえで身近な指標の一つになっています。
一方で、「睡眠休養感」という言葉そのものは、従業員や健康管理を担う担当者に十分伝わっているのでしょうか?
ニューロスペースでは、企業の産業保健スタッフ、人事・総務、管理職、一般社員などを対象に、「睡眠休養感」という用語の認知度や分かりやすさについてアンケートを実施しました。

調査は2025年8月28日から9月16日に実施し、重複回答を除く106名の回答を分析しました。
睡眠休養感アンケート結果報告書のダウンロードは
こちらから
■「睡眠休養感」を知っていた人は51%

まず、「睡眠休養感」という言葉を知っていたかを尋ねたところ、
知っていた:54名(51%)
知らなかった:52名(49%)
と、ほぼ半々に分かれました。
今回の回答者には、保健師・看護師、産業医、人事など、従業員の健康施策に携わる実務家が多く含まれています。
それでも認知率が約半数にとどまったことから、「睡眠休養感」は健康経営や産業保健の領域でも、まだ十分に浸透している言葉とはいえない可能性があります。

さらに、言葉を知っていた人に認知経路を尋ねると、「独自で調べて知った」が28名(52%)と最多でした。「学会などで知った」は12名、「ニューロスペースの勉強会で知った」は11名で、自然に広く認知されているというより、専門的な情報へ自らアクセスした人を中心に知られている状況がうかがえます。
■51%が「名称を改定した方がよい」と回答


さらに、「睡眠休養感」という用語を改定した方がよいと思うかを尋ねたところ、
「強くそう思う」「そう思う」の合計は54名(51%)
でした。
一方、「そうは思わない」「強くそうは思わない」は20名(19%)で、名称の見直しに前向きな回答が大きく上回りました。
興味深いのは、「睡眠休養感」という言葉を知らなかった人ほど、改定に前向きだった点です。
非認知層では56%が改定に賛成したのに対し、すでに言葉を知っていた層では46%でした。
つまり、初めて「睡眠休養感」という言葉を見たときに、意味を直感的に理解しにくいことが、一つの課題になっていると考えられます。
■「分かりにくい・イメージしにくい」が最多

自由記述を分析すると、用語の改定に賛成する理由として最も多かったのは、
「言葉として分かりにくい・イメージしにくい」
という意見で、34件ありました。
次に多かったのが、「解釈の個人差・主観のばらつき」の14件です。
実際に、保健師・看護師からは、
「医務職側は定義を理解しているが、受診者は言葉通りに解釈して回答するためギャップが生じている」
といった意見も寄せられました。
これは健康診断や社内サーベイを運用する際には重要な問題です。
専門家が正しい定義を理解していても、回答する従業員側の解釈が異なれば、収集されるデータにもばらつきが生じる可能性があります。
■「起きた時のすっきり感」が最も伝わりやすい?


では、「睡眠休養感」をより分かりやすく表現するとしたら、どのような言葉がよいのでしょうか。自由記述で寄せられた65件の代替名称を分類すると、最も多かったのは、
「起きた時のすっきり感」
「睡眠爽快感」
「目覚め快適度」
などの「すっきり・爽快系」で20件でした。
そのほか、
睡眠満足感
睡眠回復感
熟睡感・熟眠感
睡眠充足感
などの表現も挙げられました。
特に「朝起きたときにすっきりしているか」という表現は、専門知識がなくても比較的イメージしやすいという特徴があります。
■名称を変えるより「分かりやすい補足」が現実的か
一方で、「睡眠休養感」という名称を単純に変更すればよい、というわけでもありません。
今回の調査では、現在の名称を維持すべきという意見から、
「エビデンスや厚生労働省の睡眠ガイドとの整合性を考えるべき」
「名称を変えるより、まず意味を周知することが重要」
といった指摘もありました。
そこで今回の結果から考えられる一つの方法が、
「睡眠休養感(起きた時のすっきり感)」
のように、正式な用語と分かりやすい表現をセットで使用することです。
報告書でも、「正式名称の改定」よりも、こうした平易な補足表現を標準化して併記する方法が現実的な対応として示されています。
例えば従業員向けアンケートでは、
「起きたとき、すっきりと目覚められていますか?」
と質問し、その結果を企業側では「睡眠休養感」として評価する、といった方法も考えられます。
■睡眠休養感を「測るだけ」で終わらせない
ここで企業の健康経営において重要なのは、「睡眠休養感が低い従業員が何%いるか」を把握することだけではありません。
- 睡眠休養感が低い場合、その背景には、
- 睡眠時間の不足
- 睡眠衛生習慣の問題
- 長時間労働やシフト勤務
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)や不眠症などの睡眠障害
- その他の心身の健康問題
など、さまざまな要因が考えられます。
そのため、睡眠休養感を入口として、
「なぜ、その人は十分に休養できていないのか」
まで掘り下げることが重要です。
ニューロスペースでは、単に睡眠休養感を測定するだけではなく、睡眠時間不足、睡眠衛生、疾病リスクなど原因別に睡眠課題を分析し、それぞれに適した対策につなげていくことが、企業の睡眠施策では重要だと考えています。
■まとめ|「睡眠休養感」を従業員に伝わる言葉へ
今回の調査では、産業保健や人事など健康施策に携わる人を含む回答者でも、「睡眠休養感」という言葉を知っていた人は51%にとどまりました。
また51%が名称の改定に前向きで、その最大の理由は「分かりにくい・イメージしにくい」ことでした。
今後、健康経営において睡眠を重要な健康指標として活用していくためには、専門家だけが理解できる言葉ではなく、従業員自身が自分の状態を直感的に理解できる形で伝えていくことも重要です。
「睡眠休養感」という指標を、
測る → 理解する → 原因を分析する → 改善につなげる
ところまで設計する。
それが、企業の睡眠施策を単なるアンケートで終わらせないためのポイントではないでしょうか。
執筆者 :小林 孝徳(こばやし・たかのり)
株式会社ニューロスペース 代表取締役社長
一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会 理事長
一般社団法人 日本睡眠教育機構認定 上級睡眠健康指導士
Forbes Japanオフィシャルコラムニスト。
自身の睡眠障害の実体験をもとにこの大きな社会課題を解決したいと決意し2013年に株式会社ニューロスペースを創業。これまで健康経営や働き方改革を推進する企業200社10万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善を支援。一人ひとり最適な答えが異なる睡眠を、如何に楽しくデザインし改善できる仕組みづくりを専門としている。
著書:
・ハイパフォーマーの睡眠技術 Sleep Skill(実業之日本社)
・あなたの良眠ナビ(池田書店)
・夜型さんの無敵の仕事術(ナツメ社)