
■睡眠休養感とは?健康経営・健保が改善すべき理由と企業施策
最近、健康経営や健康診断の場面で「睡眠休養感」という言葉を耳にする機会が増えています。
睡眠休養感とは、簡単にいうと、
「睡眠によって十分に休養がとれたと感じられているか」
もっと簡単にいえば
「起きたときのすっきり感」
という主観的な感覚です。
厚生労働省が2024年2月に公表した「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、
睡眠時間=睡眠の量
睡眠休養感=睡眠の質
を反映する指標として整理され、令和14年までに「睡眠で休養がとれている者の増加」を80%、「睡眠時間が十分に確保できている者の増加」を60%にする目標を掲げています。

■なぜ「睡眠時間」だけでは足りないのか
例えば、2人とも7時間眠っていたとします。
Aさんは朝すっきり目覚め、日中も元気。
Bさんは7時間寝ているにもかかわらず、起床時から疲労感があり、日中も強い眠気を感じる。
睡眠時間だけを見れば同じですが、睡眠状態はまったく同じとはいえません。
そこで重要になるのが睡眠休養感です。
厚生労働省の睡眠ガイドでは、成人に対して、
- 6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する
- 食生活、運動、睡眠環境等を見直して睡眠休養感を高める
- それでも睡眠の不調や睡眠休養感の低下がある場合は、病気が潜んでいる可能性にも留意する
ことを推奨しています。

出典:厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023
■健診にも「睡眠で休養が十分とれている」の設問
睡眠休養感は、学術的な研究だけで使われている指標ではありません。
定期健康診断および特定健康診査の標準的な質問票にも、
「睡眠で十分な休養がとれていますか?」
という質問項目が含まれています。
そのため企業や健康保険組合にとっても、新たに大規模な検査を実施しなくても、既存の健診データから睡眠課題を把握できる可能性があります。
■睡眠休養感が低い=単なる寝不足とは限らない
睡眠休養感が低い場合、まず考えたいのが睡眠時間です。
必要な睡眠時間を確保できていなければ、休養感が低くなるのは自然です。
その次に、
就寝前のスマートフォン、食事、運動不足、ストレス、光・温度・音などの睡眠環境
といった生活習慣を見直します。
一方で、十分な睡眠時間を確保し、生活習慣を整えているにもかかわらず、
「寝ても疲れが取れない」
「朝すっきりしない」
という状態が続く場合は注意が必要です。
厚生労働省も、生活習慣等を改善しても睡眠休養感が低い場合には、病気が潜んでいる可能性にも留意することを推奨しています。
例えば、睡眠時無呼吸症候群、不眠症などの睡眠障害や、うつ病をはじめとする心身の疾病が背景にある場合があります。
したがって、睡眠休養感が低い=病気 と判断するのではなく、
生活習慣を整えても改善しない場合には、産業医・保健師への相談や医療機関への受診を検討するという考え方が重要です。
■「睡眠休養感」という言葉は、本当に従業員へ伝わっている?
ニューロスペースでは、「睡眠休養感」という用語そのものについても独自調査を行いました。
産業保健スタッフ、人事・総務、管理職、一般社員など106名に調査したところ、「睡眠休養感」という言葉を知っていた人は51%、知らなかった人は49%とほぼ半数でした。

さらに51%が用語の改定に前向きで、「分かりにくい・イメージしにくい」という意見が34件と最も多く寄せられました。
そこで実務では、「睡眠休養感(起きた時のすっきり感)」のように、専門用語と分かりやすい表現をセットで伝える方法が考えられます。今回の調査でも、正式名称を変更するよりも、平易な補足表現を併用する方法が現実的との示唆が得られています。
【参考記事:「睡眠休養感」の認知度に関する独自調査】
■健康保険組合が睡眠休養感を見るメリット
健康保険組合では、レセプト・健診データ等を分析して健康課題を把握し、それに基づく保健事業を実施・評価する「データヘルス計画」が求められています。
睡眠休養感は、このPDCAと相性のよい指標です。
例えば、
健診データから睡眠休養感が低い層を把握
↓
睡眠時間や生活習慣を追加分析
↓
睡眠教育・改善プログラム等を実施
↓
翌年度に睡眠休養感を再評価
という流れを作れます。
さらに、いびき、日中の眠気等がある人については、SASリスク評価や医療機関への受診につなげることも考えられます。
つまり、睡眠休養感は単なるアンケート項目ではなく、「次に誰へ、どのような支援を届けるか」を考える入口として活用できます。
■企業の睡眠施策は「原因別」に考える
睡眠休養感が低い従業員全員に同じ対策を行う必要はありません。
おすすめなのは、
睡眠時間不足型
睡眠衛生型
勤務・シフト型
疾病リスク型
など、原因を分けることです。
睡眠時間不足なら働き方や生活習慣。
睡眠衛生に課題があれば教育・行動変容。
シフト勤務なら勤務体系に合わせた睡眠法。
疾病の可能性があればSASスクリーニングや医療連携。
というように、解決策が変わります。
ニューロスペースでは、このように
「測る → 原因を分ける → 適切な介入をする → 再評価する」
ことが、健康経営における睡眠対策では重要だと考えています。

■まとめ|睡眠休養感は「睡眠施策の入口」
これまで企業の睡眠対策では、「何時間寝ていますか」という睡眠時間に注目することが多くありました。
しかしこれからは、
睡眠時間という「量」+ 睡眠休養感という「質」
の両方を見ることが重要です。
そして睡眠休養感が低ければ、「もっと寝ましょう」で終わらせず、
なぜ休養感が得られていないのか
まで掘り下げる。
この考え方が、企業や健康保険組合の睡眠施策を、単なる啓発から実際の健康改善へ進めるポイントになります。
【参考記事:健康経営における睡眠対策7選】
【参考記事:睡眠休養感の認知度に関する独自調査】
執筆者 :小林 孝徳(こばやし・たかのり)
株式会社ニューロスペース 代表取締役社長
一般社団法人 日本睡眠教育機構認定 上級睡眠健康指導士
一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会 理事長
Forbes Japanオフィシャルコラムニスト。
自身の睡眠障害の実体験をもとにこの大きな社会課題を解決したいと決意し2013年に株式会社ニューロスペースを創業。これまで健康経営や働き方改革を推進する企業200社10万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善を支援。一人ひとり最適な答えが異なる睡眠を、如何に楽しくデザインし改善できる仕組みづくりを専門としている。