
■睡眠改善は企業の生産性をどれだけ上げる?ROI・経済効果を解説
企業が健康施策に投資する以上、
「結局、会社にどの程度の効果があるのか?」
という問いは避けて通れません。
睡眠についても、健康に良いというだけでは経営上の投資判断につながりにくいのが現実です。
結論からいうと、すべての企業に共通する「睡眠改善のROIは○%」という数字は存在しません。
一方で、睡眠改善がプレゼンティーズムや生産性に影響することを示す研究は蓄積されてきています。
■日本の睡眠不足による経済損失はGDPの最大2.92%

RAND Europeは、睡眠不足による生産性低下や死亡リスクなどを組み込んだ経済モデルを用いて、日本の睡眠不足による経済損失を年間最大約1,386億ドル、GDP比2.92%と推計しています。
ただし、この数字は日本全体を対象としたマクロ経済モデルです。
したがって、
「社員1人あたり○万円損している」
と、そのまま自社のROI計算に使うことは適切ではありません。
企業単位では、自社データを使って効果を測る必要があります。
■RCTで睡眠改善による生産性向上を検証
企業の睡眠施策について、より直接的なエビデンスもあります。

早稲田大学の研究チームは、日本の大手製造業の従業員215名を対象として、当社ニューロスペースの睡眠改善プログラムのランダム化比較試験(RCT)を実施しました。
3か月間、介入群では睡眠を可視化し、アプリを通じて睡眠改善に関するアドバイスを提供しました。
その結果、介入群では睡眠が改善するとともに、プレゼンティーズムについても統計的に有意な改善が確認されました。2023年には査読付き学術誌PLOS ONEにも掲載されています。
ニューロスペースが提供したこの睡眠改善プログラムについて、研究結果を経済価値に換算すると、従業員1人あたり年間約12万円の経済効果と試算されています。
重要なのは、「睡眠が良い人ほど仕事ができる」という単なる相関ではなく、RCTによって睡眠改善介入と生産性との関係を検証している点です。
ただし、12万円という数字をすべての会社・従業員へそのまま適用できるわけではありません。対象企業、参加者、プログラム内容などによって効果は変わります。
■睡眠不足による損失は「欠勤」だけではない
企業が睡眠の経済効果を考える際に、特に重要なのがプレゼンティーズムです。
アブセンティーズムは「体調不良等によって仕事を休んでいる状態」。
一方、プレゼンティーズムは、
「出勤はしているものの、心身の不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態」
です。
睡眠不足の場合、「会社には来ているので問題が見えにくい」という特徴があります。
眠気、集中力低下、判断力低下、作業効率低下などが少しずつ積み重なることで、企業全体では大きな生産性損失になる可能性があります。
■睡眠施策のROIはどう計算する?
基本的な考え方は次の通りです。
ROI(%)=(施策によって生まれた経済効果-施策費用)÷施策費用×100
ただし睡眠施策では、「経済効果」をどう測るかがポイントです。
おすすめなのは、導入前後で次のような指標を確認することです。
睡眠KPI
睡眠時間、睡眠休養感、不眠尺度、日中の眠気
生産性KPI
プレゼンティーズム、WLQ、自己評価による仕事のパフォーマンス
勤怠KPI
欠勤日数、遅刻・早退、休職
安全KPI
ヒヤリハット、事故、眠気によるインシデント
これらを導入前と導入後で比較します。
■「12万円×社員数」でROIを計算してはいけない
例えば従業員1,000名の会社であれば、
「12万円×1,000人=1.2億円の効果」
と計算したくなります。
しかし、研究結果を自社社員全員に機械的に当てはめるのは適切ではありません。
実務では、
①現状を測る
②対象者を決める
③介入する
④同じ指標で再測定する
⑤変化を経済価値へ換算する
という順番が重要です。
可能であれば比較対象を設定すると、より精度の高い効果検証になります。
■「健康施策」ではなく「人的資本への投資」と考える
企業にとって睡眠改善の価値は、医療費削減だけではありません。
生産性、安全性、メンタルヘルス、離職、エンゲージメントなど、さまざまな経営指標との接点があります。
だからこそ、睡眠施策を
「従業員への福利厚生」
としてだけではなく、
「人的資本のパフォーマンスを維持する投資」
として評価していくことが重要です。
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執筆者 :小林 孝徳(こばやし・たかのり)
株式会社ニューロスペース 代表取締役社長
一般社団法人 日本睡眠教育機構認定 上級睡眠健康指導士
一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会 理事長
Forbes Japanオフィシャルコラムニスト。
自身の睡眠障害の実体験をもとにこの大きな社会課題を解決したいと決意し2013年に株式会社ニューロスペースを創業。これまで健康経営や働き方改革を推進する企業200社10万人以上のビジネスパーソンの睡眠改善を支援。一人ひとり最適な答えが異なる睡眠を、如何に楽しくデザインし改善できる仕組みづくりを専門としている。
著書:
・ハイパフォーマーの睡眠技術 Sleep Skill(実業之日本社)
・あなたの良眠ナビ(池田書店)
・夜型さんの無敵の仕事術(ナツメ社)