健康経営や人的資本経営に取り組む企業の人事・産業保健職から、こうした声を聞く機会が増えています。施策は着実に増えているのに、成果指標が動かない。この「ねじれ」には、明確な理由があります。
結論を先に述べます。
メンタル不調のリスクを左右しているのは、労働時間の長さそのものではなく、その働き方の結果として睡眠が確保できているかどうかです。
本記事では、2026年7月29日に開催をした共催セミナーの基調講演者である産業医科大学の中田光紀教授による研究知見をもとに、長時間労働・睡眠不足・抑うつの関係を整理し、さらに睡眠が削られるとなぜメンタル不調に至るのかという生理メカニズム、職場で観察できる前兆サイン、そして企業が実際に打てる対策までを一本の流れで解説します。

目次
- 「残業を減らしたのに不調者が減らない」のはなぜか
- 長時間労働とうつの研究は、なぜ結論が一致しないのか
- 決定要因は労働時間ではなく睡眠だった
- なぜ睡眠不足がメンタル不調につながるのか
- 24時間の配分から考える「睡眠7時間・残業3時間」の目安
- 職場で見られるうつ病の前兆サイン
- 企業ができる具体的な対策
- 政策動向:睡眠が健康経営の独立した評価項目になった
- まとめ
- よくある質問
1. 「残業を減らしたのに不調者が減らない」のはなぜか
多くの企業では、残業時間の削減や有給休暇取得率の向上といった指標が、健康経営の中心に据えられています。これらは重要な取り組みですが、ひとつ見落とされやすい点があります。
形式的に労働時間が短縮されても、業務密度が高まった結果として睡眠時間が削られてしまえば、メンタルヘルスの改善にはつながらないということです。
退社時刻が19時になっても、持ち帰り業務や翌朝の早出でカバーしているなら、従業員の睡眠は改善していません。むしろ「所定時間内に終わらせろ」という圧力が、可視化されない形で睡眠を圧迫している可能性もあります。
つまり健康経営において本当に問うべきなのは、「何時間働いているか」ではなく、「その働き方で十分に眠れているか」という視点です。
この直感を裏づける研究が、実は10年以上前から存在しています。
2. 長時間労働とうつの研究は、なぜ結論が一致しないのか
まず前提を確認しておきます。「長時間労働はうつ病の原因である」という主張は、私たちの実感としては当然のように思えます。しかし研究レベルでは、この関係は驚くほど一貫していません。
これまでに5件程度のメタ分析(複数の研究結果を統合して評価する手法)が行われていますが、その結果は次のようにばらついています。
- 週50時間以上の労働は、うつ病発症リスクをわずかに増加させるが統計的に有意ではない
- 週55時間以上の労働で、抑うつ症状の発症が約1.14倍に有意に上昇する
- WHOは、長時間労働が抑うつを引き起こすという十分なエビデンスはまだないと結論している

現実には長時間労働・長時間残業を背景とした過労自殺が発生し続けているにもかかわらず、研究上は「わずかな上昇」あるいは「有意な上昇なし」という結果になっている。この乖離は何を意味するのでしょうか。
中田教授は、この不一致の理由として次の3点を挙げています。
理由1:これまでの研究では睡眠が直接扱われてこなかった
これが最大の問題です。私たちが想定している因果の流れは、「長時間労働 → 睡眠が圧迫・圧縮される → メンタルヘルスを害する」というものです。ところが従来の研究の多くは、労働時間とうつを直接結びつけて分析しており、その間にある睡眠という変数を扱ってきませんでした。
真の要因が睡眠であるなら、睡眠を測らずに労働時間だけを見ている研究では、関係が薄まって見えるのは当然です。
理由2:ワークエンゲージメントによる違い
仕事を楽しんでいる健康な人は、健康を害することなく長時間働き続けられる場合があります。一方で、仕事がそもそも好きでない、経済的理由だけで働かざるを得ないという人は、必ずしも長時間働かなくても健康を害しやすい傾向があります。労働時間という指標だけでは、この差を捉えられません。
理由3:ヘルシーワーカー効果(因果の逆転)
もともと体力的にタフな人は長く働けます。逆に、すでに健康上の問題を抱えていて長時間働けない人もいます。すると「長時間働いている人ほど健康」という見かけ上の関係が生じ、長時間労働の健康影響は過小評価される方向にバイアスがかかります。
こうした背景から、中田教授は次のリサーチクエスチョンを立てました。
なぜある労働者は長時間労働で不健康になり、一方でそうならない人がいるのか
3. 決定要因は労働時間ではなく睡眠だった
研究の概要
中田教授は、米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)在籍時にこの研究に着手しました。成果は精神医学分野の学術誌 The Journal of Clinical Psychiatry に発表され、同誌の継続医学教育(CME)対象論文に選定されています。
Nakata A. Work hours, sleep sufficiency, and prevalence of depression among full-time employees: a community-based cross-sectional study. J Clin Psychiatry. 2011;72(5):605-614.
対象は埼玉県八潮市および東京都大田区の中小企業に勤務する約3,700名。抑うつの評価にはCES-D(20項目の抑うつ尺度)を用い、16点以上を軽度、25点以上を重度として解析しています。
●まず、労働時間だけを見た場合
労働時間を「6〜8時間」「8〜10時間」「10時間超」に分けて比較すると、6〜8時間の群に比べ10時間超の群では軽度・重度いずれの抑うつもやや上昇していました。これは従来の研究と同様の、想定内の結果です。
●次に、睡眠だけを見た場合
睡眠時間6〜8時間の群と比べ、6時間未満の群では軽度・重度いずれの抑うつも増加していました。さらに明確だったのは、主観的な睡眠不足感です。「自分は睡眠が足りていない」と感じている人では、抑うつリスクが約2倍という結果が得られています。
ここで実務上きわめて重要な知見があります。「十分に眠れている」と回答した群を基準にすると、「睡眠不足」の群でリスクが上がるのは当然ですが、「まあまあ眠れている」という中間の群でも、すでに抑うつリスクが上昇し始めていたのです。
つまり目指すべき水準は「まあまあ眠れている」ではなく、「十分に眠れている」という自覚がある状態だということになります。従業員サーベイで「まあまあ」という回答が多い組織は、すでに注意領域に入っている可能性があります。

●そして、組み合わせで見た場合
ここが研究の核心です。労働時間の3区分と、睡眠6時間未満/6時間以上を掛け合わせて分析すると、はっきりとした構図が現れました。
睡眠を6時間以上確保できている群では、労働時間が8〜10時間、さらに10時間超になっても、抑うつリスクは有意に上昇しませんでした。
一方、睡眠6時間未満の群では、労働時間の長さがそのままリスクに直結していました。
主観的な睡眠不足感で分けると、構図はさらに鮮明になります。
睡眠不足がある人は、それほど長く働いていなくても抑うつリスクが上昇していました。逆に睡眠不足がない人では、労働時間が増えても抑うつリスクは上がってきませんでした。

論文の結論はこう要約されます。
長時間労働に伴う抑うつは、主として睡眠不足の結果である。

●コロナ禍の研究でも同じ構図
生活習慣が大きく変化したコロナ禍を対象とした研究でも、同様の結果が確認されています。労働時間の変化(減少/変化なし/増加)と睡眠時間の変化(減少/変化なし/増加)を組み合わせて心理的苦痛(K6で測定)を見たところ、労働時間が増えたか減ったかにかかわらず、睡眠時間が減少した群で心理的苦痛が増加していました。
●希死念慮でも同じ構図
より深刻な指標である希死念慮についても、全国の労働者約10万人を対象とした調査が行われています(製造業・鉱業の割合がやや高い構成)。
「死んだら楽になる」などと真剣に思うことがあるか——これは受動的希死念慮と呼ばれ、「かなりある」「しばしばある」以上を希死念慮ありと定義したところ、該当者は約3.8%でした。

残業時間を「30時間未満」「30〜60時間未満」「60時間以上」に分け、睡眠6時間未満/以上と組み合わせて分析した結果は、これまでと同じでした。残業時間そのものよりも、睡眠が最低6時間確保できていない人で希死念慮が増加していたのです。
なお、これらは横断研究であるため因果関係を断定することはできません。ただし調査時点で各種疾患を有する人を除外し、多数の交絡因子を考慮した上でも、この関係は一貫して観察されています。

職場に求められるのは、受動的希死念慮の段階で早期に気づくことです。
積極的希死念慮(具体的な方法を考え、実際に行動に移してしまう段階)に至る前の段階でこそ、介入の余地があります。
4. なぜ睡眠不足がメンタル不調につながるのか
疫学研究が示す関係は明確ですが、その背後にある生理メカニズムを理解しておくと、施策の設計精度が上がります。
●睡眠の前半と後半では、役割が違う
睡眠は一様ではありません。前半と後半で異なる働きをしています。
睡眠の前半には深いノンレム睡眠が多く出現し、脳と体の休息が行われます。この深いノンレム睡眠中には成長ホルモンが分泌され、疲労の回復、細胞・組織の修復、免疫機能の強化が進みます。
睡眠の後半にはレム睡眠が多く出現します。ここで行われているのが、心の休息とストレスの解消です。
●睡眠が短いと、削られるのは「後半」
ここが決定的に重要なポイントです。

その結果、ストレスの解消が行われないまま翌日を迎えることになります。これが連日続くと、ストレスが雪だるま式に蓄積し、やがてバーンアウト、そしてメンタル不調に至ります。これが睡眠不足からうつに至る中心的な経路です。
●レム睡眠は「事実」と「感情」を切り離している
近年の研究で、レム睡眠のさらに具体的な役割が分かってきました。
私たちの脳は、日中に起きた事実に対して、それに紐づく感情をセットにして記憶を形作るという特徴があります。そしてレム睡眠中に、この事実と感情が切り離され、整理されることが示されています。
日中に嫌なことがあっても、一晩眠ると気持ちが切り替わっている——多くの方に経験があるはずです。あれはまさに、睡眠後半のレム睡眠が果たしている働きです。
逆に言えば、レム睡眠が削られている人は、嫌な出来事に紐づいた感情を持ち越したまま翌日の業務に臨むことになります。この状態が数週間続いたときに何が起こるかは、想像に難くありません。
●記憶の定着と、認知症予防
睡眠は記憶の定着にも関わっています。漢字や英単語のように言語で表現できる記憶は宣言的記憶と呼ばれ、主に睡眠前半の深いノンレム睡眠中に定着します。一方、楽器の演奏や運転操作のように体が覚える記憶は手続き記憶と呼ばれ、主に睡眠後半のレム睡眠に関連して定着するとされています。また、質の良い睡眠中には脳内のグリンパティックシステムが働き、認知症の一因とされる異常タンパク質アミロイドβの排出を担っていることも報告されています。質の良い睡眠は、将来の認知症予防という観点からも意味を持ちます。
●スピールマンの3Pモデル:なぜ「普通の人」が不調になるのか
メンタル不調の発生を説明する枠組みとして、スピールマンの3Pモデルがあります。

このモデルでは、人はもともと一定の素因(Predisposing factor)を持っており、通常はそれだけでは発症ラインを超えません。ところがそこに、業務上の負荷、家庭の不安、ハラスメントといった促進要因(Precipitating factor)が積み上がることで、発症ラインを超えてしまうと考えます。
ここから導かれる実務的な示唆は明快です。メンタル不調は、従業員本人がコントロールできない内的・外的要因によって、数ヶ月単位で状態が変化するということです。
「あの人は大丈夫」という前提は、数ヶ月で崩れ得ます。定点観測の仕組みが必要な理由がここにあります。
5. 24時間の配分から考える「睡眠7時間・残業3時間」の目安
ここまでの知見を、人事施策に落とし込める具体的な数字に変換してみます。
私たちに与えられているのは1日24時間です。働く人の典型的な一日を分解すると、次のようになります。

この残り10時間の中に、睡眠時間と残業時間の両方が入ります。
つまり睡眠と残業は、同じ10時間を奪い合う関係にあるということです。
この枠で組み合わせを考えると、次のようになります。


過労死・過労自殺の事案を検証すると、該当者の働き方は表の下2行に位置することが多いとされています。報道では残業時間の長さが注目されがちですが、実際に起きていたのは睡眠時間が極端に短くなり、その結果として正常な思考ができなくなり、死を選ぶことが第一の選択肢になってしまうような状態でした。
長く健康に働き続けるという観点からの最低限のバランスは、次の2点に集約されます。
睡眠は7時間以上を確保する
残業は最大3時間まで
なお厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」も、成人については6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することを推奨しています。研究知見と公的指針の双方において、6時間が重要な分岐点として位置づけられていることになります。
6. 職場で見られるうつ病の前兆サイン
「眠れなくなる前に介入する」ためには、兆候を捉える必要があります。
ここでは客観データ・主観データ・行動変容の3層に分けて整理します。
●客観データ(ウェアラブル等で捉えられる異常)
睡眠計測デバイスを導入している場合、以下の3つのパターンが要注意サインです。
- 早期レム潜時 — 入眠してから早いタイミングでレム睡眠が出現する
- 睡眠の分断化 — 中途覚醒や早朝覚醒が増える
- 社会的ジェットラグ — 平日と休日で、睡眠時間や起床時刻が大きくずれる

弊社の睡眠改善プログラム「BizSleep」ではFitbitを用いて睡眠段階を計測していますが、不調傾向のある方のデータでは、これらのパターンが実際にはっきりと現れます。特に社会的ジェットラグは、休日に「寝だめ」で補っている状態を示しており、平日の睡眠負債が慢性化しているシグナルです。
●主観データ(訴えの変化)
面談や日常会話で拾える言葉のサインです。
- 寝つけない
- 熟睡感がない
- 寝ても疲れが取れない
- 悪夢を見る
これらの発言が増えたときは、既に睡眠構造に変化が起きている可能性があります。
●行動変容のサイン
睡眠の訴えより先に、行動が変わる場合もあります。
- 食欲の減退
- 趣味や仕事への興味・関心の喪失
- 社会的引きこもり(同僚との会話やランチを避ける)
- メール返信の遅延
- 会議での発言の減少
- 遅刻・欠勤の増加
●マイクロスリープ:安全面での重大サイン
もう一つ、見逃してはならないのがマイクロスリープです。これは数秒間、本人の記憶に残らないまま眠ってしまう現象です。
デスクワークでは、入力中にDELETEキーを押したまま数秒間意識が飛び、入力内容が消えていたという形で現れます。しかし運転業務を伴う職種では、気づいたら追突していたという、他者の生命を巻き込みかねない事故の原因になります。
安全配慮義務の観点からも、睡眠不足は「本人の自己管理の問題」として切り離せる話ではありません。
7. 企業ができる具体的な対策
前兆を捉えたうえで、では何をするか。組織・制度・個別対応の3層で整理します。
(1) 組織的な介入アプローチ
・業務負担の最適化
総労働時間の管理に加え、業務密度と繁忙の偏りを見る必要があります。前述のとおり、残業時間を削っても業務密度が上がれば睡眠は改善しません。
・仮眠の推奨
日中の眠気に対して仮眠を活用することは、生産性と安全性の両面で有効です。
・睡眠不足の日を連続させない
これは即日実行できる、費用のかからない施策です。レム睡眠が不足する日を連続させないことがポイントになります。たとえば週の半ば(水曜日など)を早帰りの日として位置づけるだけでも、蓄積の連鎖を断ち切る効果が期待できます。「金曜に早帰り」より「水曜に早帰り」のほうが、睡眠負債の観点では合理的です。
(2) 制度面の設計と環境整備
・勤務間インターバル制度
退社から翌日の始業までに一定時間を確保する制度で、睡眠時間の物理的な下限を制度として担保できる点で有効です。
ただし注意点があります。そのインターバルの時間帯に実際に眠ることが目的であって、飲酒や遊興で時間を使ってしまえば意味がありません。制度導入と併せた従業員教育が不可欠です。
・在宅勤務・フレックスタイム制度の導入
通勤時間の削減は、そのまま睡眠時間に転換できる余地を生みます。前述の「24時間の配分」の表を見れば、通勤1時間の削減がどれだけ大きいかが分かります。
・仮眠スペースの設置と、心理的安全性の醸成
仮眠スペースを設置しても、「仮眠していると評価が下がる」空気があれば誰も使いません。
上司が率先して仮眠を取ることが、文化醸成において最も効果的です。制度と設備だけでなく、使ってよいという合図が必要です。
(3) 個別面談とカウンセリング
不調の兆候がある従業員との面談では、次の順序が重要です。
- 傾聴 — まず相手の話をじっくり聞く
- 共感 — 「大変だったね」という形で、まず受け止める
- 選択肢の提示 — 傾聴と共感を経たうえで、会社の制度で利用できるものを提案し、本人に選んでもらう
3つ目がとりわけ重要です。施策を押し付けるのではなく本人に選択させることで、当事者性が生まれます。
そして継続的なフォローです。いつでも近くにサポートしてくれる人がいるという感覚を持ってもらうことが、心理的安全性にもつながります。
8. 政策動向:睡眠が健康経営の独立した評価項目になった
企業が睡眠対策に取り組む必要性は、政策面からも急速に高まっています。

政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)において、睡眠対策を含む健康経営の推進が明記されました。
さらに大きな変化が、健康経営度調査における評価指標の変更です。従来、睡眠は肩こり・腰痛などと並ぶ「生産性低下防止の施策」の一項目に含まれていました。これが、睡眠の質向上に向けた取り組みを実施しているか否かという独立した評価項目として位置づけられることになりました。
これは、企業における睡眠改善施策の優先順位が制度的に引き上げられたことを意味します。健康経営優良法人の認定を目指す企業にとっては、対応が事実上避けられない項目になったと言えます。
※評価指標の詳細および該当年度の要件は、経済産業省の公表資料で最新版をご確認ください。
9. まとめ:休職してからの対応ではなく、眠れなくなる前の介入へ
本記事の要点を整理します。
- 長時間労働とうつの関係を扱った研究の結論が一致しないのは、睡眠という変数が扱われてこなかったことが大きな理由である
- 睡眠を6時間以上確保できている場合、労働時間が長くなっても抑うつリスクは有意に上昇しない。逆に睡眠が6時間を下回ると、労働時間の長さがそのままリスクに直結する
- 主観的に睡眠不足を感じている人では、抑うつリスクが約2倍。「まあまあ眠れている」段階でも既にリスクは上昇している
- 睡眠が短くなると、後半のレム睡眠が優先的に削られる。その結果ストレス解消が行われず、雪だるま式に蓄積してバーンアウトに至る
- 前兆は、客観データ(レム潜時短縮・睡眠分断化・社会的ジェットラグ)、主観データ、行動変容の3層で捉えられる
- 企業の打ち手は、業務負担の最適化・睡眠不足の日を連続させない・勤務間インターバル・仮眠環境と文化・個別面談の設計にある
重要なのは、睡眠を個人の自己管理の問題として切り離さないことです。
睡眠は業務設計、評価制度、マネジメントのあり方と密接に関係しています。企業が無意識のうちに「眠れない働き方」を前提としていないかを見直すことこそが、健康経営の本質だと考えます。
そして施策の重心を、休職してからの対応(二次予防)から、眠れなくなる前の介入(一次予防)へ移すこと。これがメンタル不調者の早期発見・早期対応を実現する道筋です。
「スリープエンゲージメント」という新しい視点
最後に、これからの方向性について触れておきます。
ワークエンゲージメント——活力・熱意・没頭が揃った状態を指す概念で、ユトレヒト大学のシャウフェリ教授が提唱し、日本では島津明人先生が導入・発展させてきました——に対して、中田教授はスリープエンゲージメントという概念の推進を提唱しています。
これは、「悪い睡眠ではない状態」を目指すのではなく、より良い睡眠を積極的に取りにいくという発想です。不調を防ぐ守りの睡眠対策から、パフォーマンスとウェルビーイングを高める攻めの睡眠対策へ。人間らしい質の高い労働生活を考えるうえで、今後重要になる視点だと考えています。
10. よくある質問
Q. 睡眠時間は何時間確保すればよいのでしょうか。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人について6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。研究知見においても6時間が重要な分岐点となっています。ただし必要な睡眠時間には個人差があり、労働時間とのバランスを考えると7時間以上の確保が望ましいと言えます。
Q. 残業時間を削減すれば、メンタル不調は減りますか。
必ずしもそうとは言えません。残業時間が減っても業務密度が高まり、結果として睡眠時間が確保されなければ、リスクは下がりません。労働時間の管理と併せて、睡眠が実際に確保できているかを確認する仕組みが必要です。
Q. 従業員のメンタル不調の前兆として、睡眠にどんな変化が現れますか。
寝つけない、熟睡感がない、寝ても疲れが取れない、悪夢を見るといった訴えが増えます。客観的には、レム潜時の短縮、中途覚醒・早朝覚醒による睡眠の分断化、平日と休日の睡眠リズムの大きなずれ(社会的ジェットラグ)が観察されます。
Q. ストレスチェックだけでは不十分でしょうか。
ストレスチェックは年1回の実施が基本であり、メンタル不調が数ヶ月単位で変化することを踏まえると、変化の把握には間隔が長いという課題があります。睡眠時間や睡眠充足度を定期的に可視化する仕組みを併用することで、より早い段階での気づきが可能になります。
Q. 仮眠制度を導入しても、社員が使ってくれません。
仮眠を取ってよいという心理的安全性が確保されていない可能性が高いです。制度や設備の整備に加えて、管理職・上司が率先して仮眠を取ることが、文化醸成において最も効果的です。
心身の不調やつらい気持ちを抱えている方、身近な方について心配がある方は、下記の公的窓口にご相談いただけます。
こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省):0570-064-556
まもろうよ こころ(厚生労働省の相談窓口まとめ):https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
働く人の「こころの耳」電話相談(厚生労働省):0120-565-455
本記事の情報について
当日の動画は以下からご確認ください。
本記事は、2026年に開催した産業医科大学 中田光紀教授との共催オンラインセミナー「従業員のメンタル不調を予防する睡眠とマインドフルネスの技術」における講演内容をもとに、株式会社ニューロスペースが構成・執筆したものです。
主な参照文献
- Nakata A. Work hours, sleep sufficiency, and prevalence of depression among full-time employees: a community-based cross-sectional study. J Clin Psychiatry. 2011;72(5):605-614.
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。また引用した研究の多くは横断研究であり、因果関係を断定するものではありません。
執筆者:小林 孝徳(こばやし・たかのり)
株式会社ニューロスペース 代表取締役社長
一般社団法人 睡眠ヘルスケア協議会 代表理事
一般社団法人 日本睡眠教育機構 認定 上級睡眠健康指導士
著書: ① ハイパフォーマーの睡眠技術 Sleep Skill(実業之日本社) ② 睡眠パターン×働き方で導く!あなたの良眠ナビ(池田書店) ③ 夜型さんの無敵の仕事術(ナツメ社)
Forbes Japan オフィシャルコラムニスト「睡眠をアップデート」
従業員の睡眠を可視化し、メンタル不調を予防しませんか?
株式会社ニューロスペースは、200社以上の企業に対して睡眠改善の支援を行ってきました。
- MySleep — 従業員の睡眠状態を診断し、組織の課題を可視化
- BizSleep — ウェアラブルデバイスを用いた睡眠改善プログラム
- 睡眠セミナー — 職種・勤務形態に応じた実践的な研修
- SAS(睡眠時無呼吸症候群)スクリーニング — 安全配慮義務への対応
まずは自社の状況を把握したいという段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
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