
従業員の健康づくりに取り組む企業が増える一方で、
「健康施策を実施しているものの、経営戦略とのつながりが見えにくい」
「睡眠の重要性は感じているが、どのような順番で施策を設計すればよいかわからない」
「セミナーを実施して終わりではなく、行動変容や成果につなげたい」
といった課題を感じている産業医・保健師・人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこで株式会社ニューロスペースでは、株式会社レゾナック 人事労務部 健康経営推進グループの国分様、香川様をお迎えし、健康経営と経営戦略のつなぎ方、そして実際に取り組まれている睡眠改善施策についてお話しいただく共催セミナーを開催しました。
レゾナックは、旧昭和電工と旧日立化成が統合し、2023年に誕生した企業です。「共創」を重要なキーワードとして掲げ、企業のパーパスやバリューの浸透にも力を入れています。今回のセミナーでは、そうした経営方針と健康経営をどのように結びつけているのか、具体的な考え方が紹介されました。
● 健康経営のゴールは「健康施策を実施すること」ではない
冒頭で国分様が強調されたのが、健康経営そのものを目的化しないという考え方です。
健康経営は、従業員の健康を経営的な視点で捉えて戦略的に実行するものであり、その先には業績や企業価値の向上があります。
そのためレゾナックでは、「健康経営の目標を達成するために健康経営を行う」のではなく、会社が掲げるパーパスやバリュー、事業戦略、経営方針を実現するための手段の一つとして健康経営を位置づけています。
これは、企業で健康施策を担当する方にとって非常に重要な視点です。
「今年は睡眠セミナーを実施する」
「ウォーキングイベントを開催する」
「健康情報を配信する」
といった“施策ありき”で考えるのではなく、
自社が目指す組織や経営の姿は何か。その実現に向けて、従業員の健康をどのような状態にしていく必要があるのか。
という順番で考えることが、健康経営を経営戦略につなげる第一歩になります。
●レゾナックが掲げる3つの健康経営KGI
レゾナックでは、健康経営における最終的なゴールを表すKGIとして、
- 健やかな健康風土の醸成
- ヘルスリテラシーの向上
- プレゼンティズムの低減
の3つを設定しています。

中でも特徴的なのが、「健やかな健康風土」を測る考え方としてPOS(Perceived Organizational Support)の概念を取り入れている点です。POSとは、簡単に言えば、「自分の健康や自分自身を、組織が大切にしてくれていると感じられるか」という考え方です。
ここでいう「組織」は会社だけでなく、職場や上司も含まれます。
また、ヘルスリテラシーについても、単に健康に関する知識を持っているかどうかだけではなく、健康情報を探し、理解し、意思決定に活用し、実際の健康行動につなげられるかどうかを重視しています。
つまり、健康情報を「知っている」状態から、「自分で選択し行動できる」状態へと従業員を支援していくことが重要になります。
●「戦略マップ」を飾りではなく、健康施策を考えるための地図に
レゾナックでは健康経営戦略マップも独自にリニューアルしています。

香川様は、戦略マップを健康経営の「地図」のようなものとして捉えていると説明されました。
現在地がどこにあり、これからどこに向かうのか。地図がわかりにくければ、施策を進める中で方向性を見失ってしまいます。
そこでレゾナックでは、一般的なフォーマットにそのまま当てはめるのではなく、
意識が変わる→ 行動が変わる→ 習慣が変わる→ 健康状態やモチベーションが変わる→ パフォーマンス向上につながる
という流れを社内で議論し、それぞれの健康投資やKPIがどこにつながっているのかを整理しています。また、健康経営担当者だけでなく、経営層や一般の従業員が見ても「会社がなぜこの健康施策を行っているのか」が理解できることを重視している点も印象的でした。
●なぜレゾナックは「睡眠」に取り組んだのか
今回特に注目されたのが、レゾナックの睡眠施策です。
施策の出発点となったのは、従業員を対象とした健康アンケートでした。
「仕事をする上で最も影響を受けている健康上の問題」を確認したところ、「睡眠不足」を挙げる従業員が多く存在していたといいます。
さらに睡眠不足は、健康そのものへの影響だけではありません。
レゾナックは製造業でもあることから、
- 仕事のパフォーマンス低下
- 業務中の怪我
- 事故のリスク
といった観点からも、睡眠への取り組みが重要だと判断しました。こうした背景から睡眠施策を検討し、2024年度よりニューロスペースのサービスを活用いただいています。

●「知る」→「自分事化する」→「行動を変える」の3段階で睡眠施策を設計
レゾナックの睡眠施策で特徴的なのが、単発のセミナーだけで終わらせていないことです。
戦略マップから逆算し、睡眠休養感を高めるためには、まず睡眠に関する「意識」と「知識」を高める必要があると整理しました。そこで最初に実施したのが、
の組み合わせです。

睡眠セミナーによって良質な睡眠につながる基本的な知識や日常生活での工夫を学び、MySleepによって自分自身の睡眠の特徴や改善ポイントを把握する。
これにより、「睡眠について知る」だけでなく、自分自身の課題として睡眠を捉える機会をつくりました。
特にレゾナックでは交代勤務者も働いているため、シフト表を用いた交代勤務者向けの睡眠アドバイスもセミナーに盛り込み、好評だったとのことです。
香川様からは、睡眠セミナーとMySleepをセットにしたことで、睡眠への意識づけから具体的な改善方法までスムーズにつなげられたことが、施策として非常に効果的だったと紹介されました。
●さらに改善意欲の高い従業員には「BizSleep」を実施
そして、セミナーやMySleepを通じて、さらに睡眠習慣を改善したいと考えた従業員に対して実施されたのが、ニューロスペースの睡眠改善プログラム「BizSleep」です。
約7週間にわたり、より実践的に睡眠習慣の改善に取り組むプログラムです。



レゾナックで実施した結果、
約80%が「睡眠満足度が改善した」と回答。
さらに、睡眠課題として多かった「熟睡困難」についても数値が大きく減少し、参加者の94%が「大変満足」または「満足」と回答したことが紹介されました。
もう一つ注目したいのが、BizSleepのプログラム完遂率100%という結果です。
健康施策では、参加者を集めること以上に「最後まで続けてもらうこと」が難しいケースも少なくありません。
レゾナックではその点をあらかじめ考慮し、参加募集の段階で、
「最後まで取り組むことを約束できる方のみ参加可能」
という条件を明確にしました。
その結果、50名の参加者全員がプログラムを完遂しました。
香川様は、この参加者の選定も、良好な結果につながった要因の一つではないかと振り返っています。
単純に参加人数を最大化するのではなく、施策の目的によって対象者や参加条件を設計する。
健康施策の実効性を高めるうえで参考になるポイントではないでしょうか。
また、当日の質疑応答では、実際の参加規模についても質問が寄せられました。
レゾナックでは睡眠セミナーへの参加は希望制とし、社内イントラネット等を通じて募集。
リアル・オンラインを合わせて、約700~800名の従業員が参加したとのことです。
また、MySleepについては基本的にセミナー参加者全員を対象とし、その中からさらに睡眠改善に取り組みたい方を対象として、50名限定でBizSleepを実施しました。
この
広く啓発する施策→ 自分の状態を把握する施策→ 意欲の高い層に対する集中的な改善施策
という階層的な設計も、企業の睡眠施策を考えるうえで参考になるモデルです。
●健康経営を「企業価値向上」につなげる
今回の講演でもう一つ非常に印象的だったのが、健康経営と心理的安全性、そして企業価値を一本のストーリーとしてつなげている点です。
レゾナックでは、異なるバックグラウンドや考えを持つ人同士が「すり合わせ」を行うことによって、新しい価値や「共創」が生まれると考えています。
そのためには、立場が異なっても率直に意見を伝えられる環境が不可欠です。
国分様は、ものが言えない状態ではコミュニケーションが成立せず、結果として付加価値を生み出せない。さらに踏み込めば、売上や業績にもつながらないと説明されました。
その土台となるのが「心理的安全性」です。
そしてレゾナックでは、「自分の健康を組織が大切にしてくれていると感じられるか」というPOSを高めることも、心理的安全性の向上につながると捉えています。
つまり、
健康施策→ 従業員が「会社から大切にされている」と感じる→ POSが高まる→ 心理的安全性が高まる→ 対話・共創が生まれる→ 企業価値向上につながる
というストーリーです。
健康セミナーそのものは、一見すると他社でも行われている一般的な施策かもしれません。
しかし、「なぜこの施策を行うのか」という意味づけを経営方針や人事戦略から逆算して行うことで、同じ健康施策でも企業にとっての意味は大きく変わります。
●健康経営担当者が持ち帰りたい3つのポイント
今回のレゾナック様の事例から、企業の健康推進を担当する皆様にぜひ持ち帰っていただきたいポイントがあります。
1.施策から考えるのではなく、経営課題から逆算する
「睡眠セミナーをやる」こと自体を目的にせず、自社の経営方針や人事戦略、健康課題の中で睡眠をどう位置づけるのかを最初に整理すること。
2.認知・自分事化・行動変容を分けて設計する
セミナーによる知識提供だけでは、必ずしも生活習慣は変わりません。レゾナックのように、
セミナー →MySleepによる状態把握→ BizSleepによる実践
と段階的に設計することで、より自然に行動変容へつなげることができます。
3.健康施策と企業価値の間に「ストーリー」をつくる
従業員の健康改善が、組織風土や心理的安全性、パフォーマンス、そして企業価値にどのようにつながるのか。
このストーリーを明確にすることで、健康経営は「福利厚生の一環」ではなく、経営戦略の一部として位置づけやすくなります。
●まとめ
今回のレゾナック様の事例から見えてきたのは、成果につながる健康経営に必要なのは、目新しい施策を次々と導入することではないということです。
重要なのは、
「自社は何を実現したいのか」
「そのために従業員にどのような変化が必要なのか」
「その変化を生み出すために、どの健康施策を実施するのか」
という一貫したストーリーをつくることです。
睡眠についても同様です。
睡眠セミナーを単発で実施するだけではなく、従業員自身が睡眠を自分事として捉え、実際の生活習慣を変えられるところまで施策を設計する。
レゾナック様の取り組みは、これから企業で睡眠施策を検討される産業医・保健師・人事の皆様にとって、多くのヒントを含む事例となりました。
株式会社ニューロスペースでは、企業・健康保険組合の課題に合わせ、睡眠セミナー、睡眠状態の可視化、睡眠改善プログラムなどを組み合わせた睡眠施策をご支援しています。
「自社ではどのような睡眠施策から始めるべきかわからない」
「セミナーだけで終わらず、従業員の行動変容につなげたい」
「健康経営戦略の中に睡眠をどう位置づければよいか相談したい」
といった企業・健康保険組合のご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
執筆者:小林 孝徳(こばやし・たかのり)
株式会社ニューロスペース 代表取締役社長
一般社団法人 睡眠ヘルスケア協議会 代表理事
一般社団法人 日本睡眠教育機構 認定 上級睡眠健康指導士
著書: ① ハイパフォーマーの睡眠技術 Sleep Skill(実業之日本社) ② 睡眠パターン×働き方で導く!あなたの良眠ナビ(池田書店) ③ 夜型さんの無敵の仕事術(ナツメ社)
Forbes Japan オフィシャルコラムニスト「睡眠をアップデート」
従業員の睡眠を可視化し、メンタル不調を予防しませんか?
株式会社ニューロスペースは、200社以上の企業に対して睡眠改善の支援を行ってきました。
- MySleep — 従業員の睡眠状態を診断し、組織の課題を可視化
- BizSleep — ウェアラブルデバイスを用いた睡眠改善プログラム
- 睡眠セミナー — 職種・勤務形態に応じた実践的な研修
- SAS(睡眠時無呼吸症候群)スクリーニング — 安全配慮義務への対応
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